Nymphaea thermarum
Nymphaea thermarumは世界最小のスイレンで、水中よりも湿った泥の中で育つ唯一のスイレン族の植物である。
種に関する情報
- 学名: Nymphaea thermarum Eb. Fisch.
- 普通名: 現時点ではなし。キューでは、「ピグミー・ルワンダ・ウォーター・リリー」と呼ぶようにしたが、正式名称ではない。
- 保護状況: 野生では絶滅。
- 自生地: 淡水の温泉からあふれ出た泥地で、水温が25℃まで冷えた所。
- キーユーザー: この種は常にごく稀であったため、用途は不明。
- 主な用途: 不明。
分類
- 鋼: トクサ綱
- 亜鋼: モクレン亜綱
- 上目: スイレン上目
- 目: スイレン目
- 科: スイレン科
- 属: スイレン属
この種について
淡水温泉の周囲で成長するこの高温性スイセンは、コブレンツ・ランダウ大学のドイツ人生物学教授エーベルハルト・フィッシャーにより1987年に発見された。生息地は唯一、ルワンダ南西部のマシューザが知られている。しかし、繊細な生息環境を作っていた温泉が過剰開発されたため2008年、この植物はその生息地から姿を消してしまった。水が地表に到達しないようになり、この植物が生えていた数平米の土地は乾燥してしまい、それ以来野生では生存が知られていない状態である。
原産地と分布
自然環境で絶滅する前までは、Nymphaea thermarumはルワンダ南西部のマシューザに自生していた。現存する植物はすべてキューとドイツで栽培されているものである。
種の特徴
キューで栽培中のNymphaea thermarum(写真:Andrew McRobb, RBG Kew)
直径10~20 cmのロゼット(根出葉の丸く並んだもの)をなし、短い葉柄のある明るい緑色の浮葉(葉片)を持つ極めて小さなスイレン。葉は小さいものでは直径1 cmほどの大きさである。中心の成長点は湿った泥の中に沈んでいるので、拡がる前の若い葉が乾燥しない仕組みになっている。
花は白色で、黄色の雄蕊があり、自家受粉できる。早朝に開花し、午後の早い時間に閉じる。花はスイレン本体から数センチメートルの高さまで垂直に伸びるが、開花期を終えると、花柄が曲がるので果実が濡れた泥と接触する。果実は熟すと分解し、種子が放出される。繁殖は種子のみによる。
種の危機と保護
この種の生息地において湿度を維持し一定の温度を保っていた温泉に連絡する帯水層を過剰に開発した結果、唯一の個体群が死滅してしまった。
しかし、この種は現在ではキューで容易に増殖栽培できるようになった上、泉の水は現在も湧き出しているので(ただし、地表に達する以前に分水されてしまっている)、ルワンダの自生地を再生してNymphaea thermarumを野性に戻す可能性は全くないとはいえない。
用途
この種は常にごく稀であったので、用途は知られていない。しかし、これを観賞用交雑種の親植物に利用し、池がなくても育ち開花できる小さなスイレンを作り出せるかもしれない。アジアにおけるEuryale feroxの種子のように、一部の他のスイレン類が食料として利用されているし、他の例としては、オーストラリアの種がアボリジニの間では普通に食べられている。しかし、スイレンには約50種ほどあり、その中には大量に食べると有毒なものがある。
栽培
Nymphaea thermarumは深い水辺では育たないという変わったスイレンである。小さめの鉢の最上部まで細かい壌土を入れ、それを鉢よりもわずかに高く、面積が大きい水漏れしない容器の中に配置する。次に水面が鉢の土と正確に同じ高さになるまで容器に水を入れる。土に水が十分に染み込んで安定したら、鉢を容器から取り出し、土の表面に種子を薄く蒔く。水位は決定的に重要であり(土の高さの下2 mm、上0.5 mmまでに維持することが必須)、また、蒔いた種子は濡れた状態を維持しながらも、発芽したときに空気にさらされるように水面にごく近くなければならない。芽苗を22~26度に維持すると、最初の葉がすぐに現れる。苗は直射日光にあてなければならんない。苗が手で扱えるような大きさになったら(通常直径5 mmの葉が5枚揃ったとき)、つまみあげて個々の鉢に移植する。数ヶ月後には蕾が現われるはずである。
キューにおけるこの植物の位置
キューの植物生体コレクションは50株以上のNymphaea thermarumを保持しているが、これこそこの種を大量に定期的に繁殖している世界で唯一の場所である。
絶滅の危機から復活
詳細情報キューの優秀な植物増殖「暗号解読者」カルロス・マグダレーナと小さなスイレン(写真:Andrew McRobb, RBG Kew)
キューの最も優秀な植物増殖「暗号解読者」である園芸職員のカルロス・マグダレーナは、葉の直径がわずか1 cmの世界最小のスイレンと言われているアフリカの希少種の成長の謎を解明した。
Nymphaea thermarumは、コブレンツ・ランダウ大学のドイツ人生物学教授エーベルハルト・フィッシャーにより1987年に発見された。生息地はルワンダ南西部のマシューザの1箇所に限られていた。しかし、繊細な生息環境を作っていた温泉が過剰開発されたため、2008年にこの植物はその生息地から姿を消してしまい、それ以来野生での生存は知られていない状態である。
この植物種を発見してすぐに、フィッシャー教授はこの植物が危機的状況にあることを知り、わずかな苗をボン植物園へ。ボンでは、園芸学者が栽培に成功し、このスイレンは10年以上にわたって生存した。ところが、株を増やすのは非常に困難であることが分かった。
Nymphaea の苗N. thermarumを除くすべてのNymphaeaは完全に水没した状況で発芽する。(写真:Andrew McRobb, RBG Kew)
2009年7月、ボンとキューの間で行っている保護植物の交換により、数個の種子とあらかじめ発芽させた苗がキューに届いた。その当初、N. thermarumの発芽苗は他のスイレンと同様に水没させた状態で育てた。しかし、この方法では、ボンとキューの両方で生育に失敗した。苗はかろうじて生きているだけで、成熟段階に達することはなかったのである。
この時、最も希少で最も育てにくい植物を絶滅の瀬戸際から復活させることで知られていたカルロスは、N. thermarumの増殖という困難な作業に挑んだ。彼は、温度、水の硬度、pH、水深をいろいろに変えた一連の実験を行った。硬度の高い水を使用して水位を浅くすると植物の成育が多少は進んだが、成熟するには至らなかった。
次に、カルロスは水に含まれるガス体を変化させる方法を研究し、自生環境の情報を収集することにした。ドイツ語の原記載に戻ってみたところ、決定的に重要な手がかりが得られた。「温泉から溢れ出た水で濡れた泥のなかで育っている。地表に溢れる時水温は50度であるが、この植物が群生していたのは水温が25度まで低下した場所である。」すなわち、他のスイレンとは異なり、N. thermarumは、湖、川、沼などの水没した状況では育たないのであった。意外な事実は、この小さな極めて希少な人目に触れない植物は温泉のそばの湿った環境で育つということであって、それこそが、生育の謎を解く重要な鍵だったのである。
この知識をもとにカルロスは最終実験を行った。彼は、水を満たした小型容器の中の壌土を入れた鉢に種子と発芽苗を植え、水位を土の表面と同じ高さに維持し、水温を25度にした。この方法で、この植物種の最後の生き残りは大気中の高濃度の二酸化炭素と酸素にさらされた訳である。カルロスの驚き喜ぶほどに、間もなく、改善が見られ、数週間後には8株が強く育ち始め、成熟して厚みのある濃い緑の幅広の葉をつけるようになった。こうして2009年11月、キューのN. thermarumは初めて開花したのである。
製作:
科学編集:Carlos Magdalena
校正:Emma Tredwell
寄稿者のEberhard Fischer教授およびボン植物園に感謝の意を表します。